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日本語で読めるアラブ詩の本5冊

投稿日:2021年12月19日

皆さん、こんにちは。

今日は日本語で読めるアラブ詩に関する本をご紹介していきたいと思います。

アラブ詩について書かれた日本語の本は残念ながらそれほど多くはありません。既に絶版になっていて古書しか手に入らないもの、入手困難なものもあり、私も何冊かはたまたま古本屋さんで見つけたものですが、学生さんの場合は学校の図書館などで探してみる方が手っ取り早いかもしれません。


アラブ古典詩を読むための背景知識を得られる本


「ジャーヒリーヤ詩の世界」
著 者:小笠原良治
出版社:至文堂
出版年:1983年


まず1冊目はアラブ詩に興味があるけど何から入っていけばいいかわからない、という方にお勧めの本です。

タイトルの「ジャーヒリーヤ(جاهلية‎)」とは、文字通りの意味は「無知蒙昧」ということで、 イスラーム教が始まるよりも前の混沌の時代(実際どうであったかはともかく)のことを指します。西暦でいうと大体5~6世紀にあたり、アラブ詩といえば、まず最初に学ぶのがこの時代の詩人達です。

本書では、まず前半部分でジャーヒリーヤ時代の詩が登場した歴史的背景や社会状況等の解説があり、詩を読むための基礎知識を得ることができます。

日本人でも源氏物語や枕草子といった古典を理解するためには、色々と文法や背景知識を学ぶ必要がありますが、同様にアラブ古典詩を読むためには当時の社会、慣習、部族、人々の価値観、自然環境といった舞台や背景を知っておいた方がより理解が深まります。

後半部分では、この時代の主要な詩人について一通りの紹介があり、「ムアッラカート(المعلقات‎)」と呼ばれる当時の特に優れた詩について、部分的ではありますが翻訳されたものも読むことができます。

個人的には当時の女性詩人の役割や、挽歌で有名な女流詩人アル=ハンサーゥについても1章分のページが割かれており、興味深かったです。



アラブ詩人の面白エピソード満載のエッセイ集


「恋するアラブ人」
著 者:師岡カリーマ・エルサムニー
出版社:白水社
出版年:2004

師岡カリーマ・エルサムニー (著)


2冊目の本は、以前、NHKのアラビア語講座を担当されていた先生による、ご自身の体験などを織り交ぜたエッセイ集です。1冊目の本よりも気軽に読めますので、こちらも最初の1冊としてお勧めです。

詩に関する専門書というわけではないのですが、たとえばアラブ史上最大の詩人アル=モタナッビーの最期や、幼馴染に恋をして狂ってしまった詩人の話、天才詩人アブー・ヌワースが学校で教えられなかった理由や世捨て人だった詩人マアルリーについてなど、アラブ文学や有名詩人に関する興味深いエピソードが満載でとても楽しいです。

1章ごとに内容が完結しているのでとても読みやすく、必ずしもアラブ詩に興味ある方でなくても楽しめる内容です。



アッバース朝期の天才詩人による飲酒賛歌


書籍名:「アラブ飲酒詩選」
著 者:アブー・ヌワース、塙治夫 訳
出版社:岩波文庫
出版年:1988



3冊目はアッバース朝期の宮廷で活躍した詩人アブー・ヌワース(أبو نواس)の、特に飲酒詩を中心に集めた本です。

アブー・ヌワースは「千夜一夜物語(アラビアンナイト)」にも登場したり、イラクをはじめ様々な都市で通りの名前になったりもしている、アラブ圏で人気の詩人です。

本書では、イスラーム文化黄金期の都バグダードで朝っぱらから呑んだくれたり、放蕩に耽ったり、飲酒を咎める友人に反駁したり、葬式で嘆き悲しむ美女を戸口から覗いて悩殺されたり・・・なんとも自由な詩人の生涯が垣間見えます。

お酒好きな日本人にとっては非常に親しみを持ちやすい詩人といえるかもしれません。

翻訳者の 塙治夫氏は元外交官でアラビア語翻訳家でもあり、この本以外にもエジプトの作家ナギーブ・マフフーズの作品を多数翻訳しています。

この本は再版を重ねており私が持っているのは第5版でした。値段もお手頃でたぶん一番入手しやすい本です。


アンダルス詩人による「愛について」の論攷


「鳩の頸飾り」
著 者:イブン・ハズム /黒田壽郎 訳
出版社:岩波書店
出版年:1978


4冊目は、11世紀のアンダルス時代、つまりスペインに宮廷があった時代の詩人イブン・ハズム(ابن حزم الأندلسي)が書いた愛についての論考集です。

言わずもがな、愛は古今東西の文学や詩にとって重要な主題の一つですが、本書では「愛の本質について」から始まり、一目惚れ、愛の成就、裏切りなど、様々なテーマについて当時の詩人達の詩の引用や逸話とともに語られます。

イブン・ハズム自身の詩も多数紹介されており、これがまた非常にロマンチックで美しいです。翻訳と解説はイスラーム学者の黒田壽郎氏です。

恋の駆け引き、両思いの幸福、失恋の悲しみ等々、1000年も前の人々が悩んだり喜んだりしている内容が現代人のそれとそれほど変わらないことが面白いなと思いました。


パレスチナ現代詩人のアンソロジー


「壁に描く」
著 者:マフムード・ダルウィーシュ/四方田犬彦 訳
出版社:りぶるどるしおる
出版年:2006年

マフムード・ダルウィーシュ(著) 四方田犬彦 (訳)



5冊目の本は、現代のパレスチナ詩人マフムード・ダルウィーシュ(1941年~2008年)の詩集です。

ダルウィーシュはパレスチナ人の祖国喪失や占領下での苦悩などについて多数の作品を発表して多くの賞を受賞している、アラブ圏で知らない人はいない有名な現代詩人の一人です。

アラブの作曲家たちによって曲をつけられ、歌われたものも沢山あります。

日本での知名度はまだまだ低く、日本語で書籍として出版されているのは現在のところこれ1冊です。

本書の半分以上はタイトルにもなっている「壁に描く」という詩なのですが、非常に長くてこの詩ひとつで一冊の詩集のような感じです。次から次へと切り替わる場面によって想像力が刺激され、まるで壮大な戯曲でも読んでいるかのような気分になりました。



さて、日本語で読めるアラブ詩の本ということで5冊ご紹介してみました。

アラブ詩に関する日本語の本は多くないと書きましたが、それでも改めて探してみると色々ありました。まだご紹介していない他の本についても、折を見て書きたいと思います。

それぞれの本の翻訳はもちろん素晴らしいのですが、アラブ詩は声に出してみてなんぼと言えますので、アラビア語学習者の方にはぜひ原文の方も読んでみてほしいです。

とは言え、いきなりアラビア語の詩を読むのはハードルが高すぎるので、まずはここでご紹介したような本でウォーミングアップしていただければ幸いです。

日本では一遍の詩すら紹介されていないアラブの詩人もまだまだ無尽蔵にいます。

ここに掲載されている書物から興味を持たれた方がいましたら、ぜひ一緒にアラブ詩の大海を泳いでみましょう♪


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