皆さま、こんにちは。今日は久々にアラブの諺についての記事を書きます。
今日ご紹介する諺はこちらです。
بَابُ النَّجَّارِ مُخَلَّعٌ
(バーブ・ンナッジャーリ・ムハッラア)
単語を一つ一つ解説します。文法用語がよくわからない方は読み飛ばしてください。
بابٌ(バーブ):ドア
نَجَّارٌ(ナッジャール):大工。ここでは「大工のドア」と属格なので語尾にカスラが付いて、発音はナッジャーリとなります。
مُخَلَّعٌ(ムハッラア):ぐらぐらした、一部外れた
直訳は「大工の(家なのに)扉がぐらぐらしている」となります。
これはまた、国によっていくつかバリエーションがありまして、たとえばイエメンでは、بيت النجّار بلا باب(バイト・ンナッジャーリ・ビラー・バーブ。訳:「大工の家に扉なし」 )と言います。
意味するところは「大工のくせに質の悪い家に住んでいる」、つまり、専門家が能力や技術を自分自身の利益に活かせていないということです。
日本語で言う「医者の不養生」とか「紺屋の白袴」といった諺と同じです。
さらに今回初めて知った日本語ですが、「大工の掘っ建て」という諺もあるようです。あまり聞いたことはないのですが、まさにこのアラビア語の諺と同じ表現ですね。
腕の良い大工の話
この諺が生まれた逸話は以下のとおりです。
あるところに大変腕の良い大工さんがいました。
彼は年老いたので引退してのんびりしたいと思い、雇い主に仕事を辞めたいと言いました。
けれども雇い主は同意せず、「最後に一軒だけ、素晴らしい家を作ってくれ」と頼むので、大工は渋々仕事を引き受けました。
なるべく早く引退したかった大工は、質の悪い材料を選び、手抜き工事をしたため、完成した家は大工の技術力からは考えられないほど酷い出来となりました。
さて、「家が完成したので、今度こそ私は引退する!」と伝えると、雇い主は言いました。
「この家はあなたが長年、我々と共に働いてくれた感謝の気持ちとして、プレゼントします。どうぞ受け取ってください。」
大工は大変驚きました。そうと知っていたら、手抜きなどせず、もっと素晴らしい家を作ったのに・・・。
こうして、大工の粗末な家の前を通りがかった人々は笑って言いました。
「大工の家なのにドアが外れそうだね」と。
YouTubeで良い動画を見つけましたので、ネイティブの発音を確認してみてください。