今日はアラブのことわざأمثال العربをご紹介します。
イスラーム以前の時代の逸話が元になっていますが、現在もアラブ諸国でよく使われている有名なことわざです。
ِرَجَعَ بِخُفَّيْ حُنَيْن
(ラジャア・ビホッファイ・フナイン)
(※文法用語がわからない人は、ここはさらっと流しましょう。)
ラジャア(رَجَعَ):動詞の完了形「(彼は)帰った」
ビホッファイ(بِخُفَّي):前置詞のبِ(ビ)「~と共に」+名詞「靴」خُفٌّ(ホッフ)の双数形 خفان が属格なので خفين になります。語尾のヌーン(ن)はイダーファなので脱落。
フナイン(حُنَين):人の名前です。
文字通りは「彼はフナインの靴を持ち帰った」ということです。
この諺がどういう意味でどういった時に使うかは次のとおりです。
靴職人フナインのお話
ヒーラالحيرةの町にフナインحنينという名の腕の良い靴職人إسكافがいました。
ヒーラは現在のイラク南部ナジャフあたりにかつてあった町の名前です。以前、「スィニンマールの報奨」という諺の回でも登場しました。
ある日、フナインのお店にラクダに乗ったアラブ人のベドウィンأعرابيがやってきました。
ベドウィンبدويとは、砂漠の民、遊牧民のことです。
さて、このベドウィンの男はフナインが作った靴خفينを気に入ったようで、値切り交渉を始めました。
(靴はアラビア語で「ヒザーゥحذاء」と言います。ここで出てくる「ホッフخفّ」という単語は調べてみると、サンダルやスリッパのような革製の薄っぺらい靴を指すようです。)
ずいぶんと長いこと話し合った後で、最終的にフナインがとても安い額に合意したにも関わらず、ベドウィンの男はなんと靴を買わずに店を出ていってしまいました。
フナインは時間を無駄にされたと怒りました。しかも男の交渉中の態度はとても無礼سوء الأدبだったので、頭にきたフナインは仕返しするينتقمことを決意しました。
フナインは近道を使って、ベドウィンの男が通る道を先回りし、男が買いたがっていた靴の片方を道に置きました。
さらに、もっと進んだところにもう片方の靴を置きました。
ベドウィンの男がやってきて、最初の片方の靴を見つけます。
「これは!フナインの靴になんと似ていることか」と男は驚きました。「しかし、片方だけでは意味がない」と、靴をその場に置いたまま道を進みました。
しかし、しばらく進むともう片方の靴が置いてあります。
男はふたたび驚き、先ほど片方の靴を持ってこなかったことを後悔しましたندم。そして、その場にラクダと旅で手に入れた食料などを置いて、靴を取りに道を戻ったのです。
物陰からうかがっていたフナインは、男への仕返しとしてラクダや食料を横取りしてしまいました。
そして、男が靴を手に入れて喜んで元の場所に戻ってくると、ラクダと食料はもうありません。
男が自分の村に手ぶらで戻ると人々が尋ねました。
「今回の旅で何を持ち帰ったんだい?」
男は答えます。
「フナインの靴を持ち帰ったよ」
「使命を達せずに帰る」という意味
というわけで、わざわざ旅に出たのに肝心なものを持ち帰らなかったことから、期待外れの結果に終わることを表す時にこの諺が使われます。
HANS WEHRの辞書では「手ぶらで帰る、使命を達せずに帰る、失敗すること」などとあります。
日常会話や新聞記事、特にスポーツ記事なんかでもよく使われているのを見かけます。
たとえば、「彼はオリンピックでメダルが期待されていたけど、フナインの靴を持ち帰ったね」と言ったら、メダルは取れずに帰国したという意味になります。
面白い言い回しですね。日本語で似たような表現が思い浮かびませんが、「骨折り損」とか「徒労に終わる」といった表現が近いかもしれません。
機会がありましたら、ぜひ使ってみてください。
参考記事:شبكة أبو نواف
単語帳