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映画「判決、ふたつの希望」(قضية رقم٢٣)

投稿日:2018年9月16日

 

 

昨日、「判決、ふたつの希望」(原題:قضية رقم ٢٣)という映画を見てきました。

ストーリー展開、俳優陣、どれをとっても素晴らしく、期待以上でした。

「モザイク国家」と呼ばれるレバノンの複雑な民族・宗教状況、内戦の歴史など背景となる知識があれば、より理解は深まると思いますが、一緒に行った私の家族は前知識がなんにもない状態で(シャロンも知りません・・・)、十分面白かったと言っていましたので、中東のことを知らなくてもきっと楽しめると思います。

既に様々なメディアにも取り上げられていて、私が改めて言うまでもないですけど、まだ見ていないならぜひ。自信を持ってお勧めします。

とまあ、感想はこの辺で。このブログは映画評論ではなく、あくまでアラビア語に関して書く場所なので、さっそく映画内に出てきたアラビア語について書いていきたいと思います。

※以下、ちょっとネタバレ含みます。まだ見てない人は後で読んだ方がいいかもしれません。

 

あらすじと映画中のアラビア語

ざっくりあらすじを紹介しますと、舞台はレバノンの首都ベイルートです。

キリスト教徒マロン派ماروني自動車修理工場مرآب لتصليح السياراتを所有するトニーと、パレスチナ難民لاجئ فلسطينيで現場監督のヤーセル、2人は些細な切っ掛けでお互いに相手を傷つける侮辱إهانةの言葉を放ってしまいます。

2人の喧嘩مشاجرةは凄腕弁護士を雇っての法廷محكمةでの戦いとなり、さらには国全体をも巻き込む大問題となってしまいます。

あらすじはこんなところです。

公式トレーラーはこちら。

©longridecinema

 

劇中で出てくる2人の侮辱の言葉を取り上げます。

まず最初にヤーセルが言い放つ暴言ですが、「このクズ野郎!」ですね。

 

**انت واحد ع

(ンタ・ワハダ・アルス)

 

まあ、公式トレーラーにも出ちゃってたんでカタカナで書いちゃいましたけど、アラビア語で書くのは憚られたので省略させていただきました。

「アルス」という言葉がこれ、とても下品で悪い言葉ですから、くれぐれも使っちゃだめです。。酷い侮辱の言葉です。

ネット辞書で調べてみると、「子供や保守的な人にはふさわしくない言葉」「汚い言葉」という注意書きが書いてあるくらいです。

 

一方、トニーがヤーセルに言ったセリフです。

 

ياريت شارون محاكن عن بكرة ابيكن

(يا ليت شارون مَحَاكُم عن بكرة أبيكم)

(ヤーライタ・シャーローン・マハーコン・アン・バクラ・アビーコン)

 

يا ريت (ヤーライタ):願わくば
شارون(シャーローン):アリエル・シャロン(イスラエル元首相)
محاكن(マハーコン):あなたたちを抹殺した
عن بكرة ابيكن(アン・バクラ・アビーコン):例外なく、1人残らず

 

口語方言なので語尾が「コン」となっていますが、正則アラビア語ですと、
محاكم(マハークム)、ابيكم(アビークム)となります。

「シャロンがお前たちを1人残らず抹殺してくれたら良かった」という、パレスチナ難民からしたら許しがたい暴言でした。

トニーはなぜこんな酷い言葉を言ってしまったのか?

それは映画をご覧になっていただくとわかります。

 

主演の俳優さんについて

 

トニー役を演じたアーデル・カラム(عادل كرم)さん、1972年生まれのレバノン人俳優です。

▼ ご本人のツイッターアカウント(@adelkaram9)より

「未来チャンネル」のお笑い番組「ラーユマッル(لا يمل)[意味:退屈しない]」や、「アブ・リヤドの冒険(مغامرة أبو رياض)」で有名になりました。

経歴を読んで初めて気づきましたが、ナディーン・ラバキー監督の「キャラメル(原題:سكر بنات )」や、「وهلأ لوين؟(「私たちはどこへ行くの?」日本未公開)」という映画にも出演しています。

 

トニーは前半、こいつなんて嫌なやつなんだと思いましたけど、ストーリーが進むにつれて徐々に見方が変わっていきますね。

 

続いて、パレスチナ難民ヤーセル役のカーメル・エルバシャ(كامل الباشا)さん、1962年エルサレム生まれのパレスチナ人舞台俳優です。

▼ ご本人のツイッターアカウント(@kamelelbasha)より

イラクで演技の勉強をしたとのことで、政治活動を理由にイスラエル当局に2年ほど拘束されていたこともあるんだそうです。

この映画でヴェネツィア国際映画祭の男優賞を受賞しました。

 

はじめはカッとなって侮辱の言葉を放ってしまったけど、時間がたつにつれ少しずつ冷静になっていく2人。

でも周囲の反応がエスカレートしてしまい、引くに引けなくなった紛争当事者の複雑な心情を見事に演じていたと思います。

トニーがヤーセルの車を直すシーンが一番好きですね。

 

ジヤード・ドゥエイリ監督について

 

最後に、監督のジヤード・ドゥエイリ(زياد دويريさん、レバノン人(フランス国籍も)です。

内戦時代のベイルートに住む少年達を描いた「西ベイルート」(1998)でデビュー。こちらも経歴を見て気づいたのですが、ドゥエイリ監督は「The Attack」(2012)という映画の監督でした。数年前に既に見ていたのですが、その時は監督の名前にまで注目していませんでした。

ドゥエイリ監督は「The Attack」で一部のシーンをイスラエルで収録したために、レバノン国内で批判を受けたそうです。

というのは、レバノンとイスラエルは国交のない敵国同士ですので、レバノン人がイスラエルに入国することは法律で禁止されています。

本当に複雑ですね。

ちなみにこの映画の主演はアリ・スリマンさんです。彼はパレスチナ人ですが国籍はイスラエルです。ドラマ「ジャック・ライアン」に出ている俳優さんですよ。

残念ながらこちらの映画は日本で公開されていません。
参考まで、英語字幕版のトレーラーです。

 

原作の小説「テロル」は邦訳が早川書房から出ています。

作者はアルジェリア人作家のヤスミナ・カドラさんです。
ずっと身分を隠して執筆していたので女性の名前ですが、実は男性です。

第2次インティファーダの頃の自爆攻撃を題材とした作品で、私はすごく面白いと思いました。パレスチナ問題に興味のある方は読んでみてください。

 

そして、レバノンについてもっと知りたい方は、レバノンに関する書籍はまだまだ少ないのですが、以下のようなものがあります。

シリアとセットになっていますが、マロン派やレバノン内戦、レバノン映画についてなど、1章が5~6ページにまとまっているので、興味のあるところから読むことができます。シリア、レバノンに関する入門書です。

 

こちらは2004年のラフィク・ハリーリー元首相の暗殺事件とそれ以降の情勢について詳しく書かれています。

 

というわけで、大変長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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